久しぶりにブログを更新します。

最近、SNSで広島県行政書士会のこんな会長声明が話題になっていました。

行政書士の職能についての会長声明
https://www.hiroshima-kai.org/doc/efilebox1030/1559027268219_79416282.pdf
交通事故にかかる自動車保険請求手続についての会長声明
https://www.hiroshima-kai.org/doc/efilebox1030/1559027735125_58602071.pdf

いずれも5月28日付で、ホームページにもアップされています。2つ目の交通事故に関する方にあるのですが、これらの会長声明は、広島弁護士会が行政書士会に申入や照会を行った行動をきっかけに出すことにしたようです。私は、広島弁護士会の非弁業務広告調査委員会の委員長を務めており、それらの現場責任者ということになります。
これだけ話題になって拡散されていることを静観するわけにもいかないと考え、何回かに分けてブログをアップさせていただこうと思います。
なお、これらについては、弁護士会の機関決定は何も受けておらず、全くの私の意見と言うことになります。

まず最初に、行政書士の職能についての会長声明について、書いてある内容が以下におかしいかという点を説明しておきたいと思います。
前文の内容もおかしいのですが、そのおかしさは本文の解釈がおかしいことに由来するので、本文の内容について指摘していきたいと思います。

1 行政書士の職能についての会長声明の内容

この会長声明では、以下の3つの点が主張されています。
① 行政書士が法律的判断を行いうること
② 行政書士が契約代理を行いうること
③ 大阪高裁の判例が不当であること

2 ①(行政書士が法律的判断を行いうること)について

声明では、行政書士が法律的判断を行いうることことの根拠として、
<1> 平成9年に行政書士法が改正され、目的に関する規定が新設された
<2> 現代社会では、代筆行為は少なくなり、元々の行政書士の業務である代筆行為は少なくなった。
という点を挙げます。

しかし、業務が少なくなったからといって、職域を増やさないといけないというのは、行政書士の願望でしかありません。職域を広げるためには、それを踏まえて法律が改正されたことが必要になります。<1>の改正が、そういう認識の下で行われたのであれば、これにより法律的判断をすることが認められた、という主張はまあ成り立つでしょう。

しかし、この声明でも認められているとおり、他の士業に関する法律は大体目的規定があるのに行政書士法にはなかったことから、目的条項が新設されることになっただけです。当時の国会でも、所管官庁である自治省行政局の政府委員が「行政書士の業務の範囲に変更を加えることとなるものではない」と明言したようです。
ということは、改正されたのだから法的判断が出来るように権限が拡大したのだ、という主張は、明らかに間違っています。

行政書士の権限は、今も昔も代筆行為だけです。もちろん、官公庁に書類を出すとか、権利義務に関する書類を作成する上では、代筆といっても、ある程度法律的な知識がないと書けないものもあるでしょう。その際の指導を「法律的判断」というのは自由ですが、それは昔から行政書士の権限の範疇であり、改正で何か変わったわけではありません。そして、その意味での「法律的判断」というのは、法的紛争における法律判断、それに基づくアドバイスとは全く別のものです。

3 ②(行政書士は契約代理を行いうること)について

次に声明では、行政書士が契約代理を行える根拠として、日本行政という文献の記載を2つ、さらに広島高裁の判例を1つ挙げています。なお、この広島高裁の判例は、平成27年9月27日となっていますが、恐らく9月2日の誤りです。

この広島高裁の判例ですが、確かに「行政書士が業務として契約代理を行うことができ、契約書に代理人として署名し、契約文言の修正等を行うことができることを意味し、弁護士法第72条の規定に抵触しない範囲で契約文言の修正等を行うことを許容する趣旨」という文面はあります(ただし括弧書きはありません)。しかし、その記載には、行政書士の代理を認めるニュアンスは微塵もありません。

そもそもこの判決というのは、広島県行政書士会所属の行政書士が、本来弁護士しか出来ないヤミ金融との交渉業務を行ったということで、元依頼者から報酬を返せという訴訟を起こされ、敗訴して返還を命じられた事件です。
そしてこの文章の内、判断に大事なのは「弁護士法72条に反しない範囲で」という部分です。弁護士法72条に反するから無効ですよ、というのが判決の要旨になります。行政書士が何が出来るかというのは前置きに過ぎないのです。

判決を確認する以前の問題として、そもそも、この文面で、なぜ「依頼者の代理人として契約代理行為が出来る」という話が出てくるのでしょうか。確かに「契約代理を行うことができ」と書いてありますが、ここでいう契約代理とは、「契約文言の修正を行うことができる」人です。ということは、「依頼者に変わって契約書に署名できる人」ではありません。ということは、「契約書に代理人として署名し」とは、契約書を代わりに作成しましたということを明示できるという意味になります。声明が反対している「契約代理は行政書士の職能に含まれておらず、書類作成代理に過ぎない」という意味そのものです。
こうしてみると、高裁判例については、声明の主張は完全な詭弁です。契約代理ができる根拠には全くならないことが明らかでしょう。

他の根拠についてですが、残念ながら、他の2つの文献については見つからず、検証できませんでした。というのも、この「日本行政」というのは、日本行政書士会連合会が発刊している内部機関誌のようで、しかも2002年という15年以上前の文献なのです。そもそもそんな古い、しかも内部の機関誌にしか書いていないという時点で根拠としては非常に弱いものといえますし、広島高裁の判決で見られるような詭弁を弄する人が原典を確認できないような文献を挙げても、検討に値しないと思います。

4 ③(大阪高判平成26年6月12日に対する批判)について

最後に、大阪高裁の判決が不当であるというないようですが、これが一番ひどく、率直に言って何が言いたいのかさっぱり分からない論理でした。
どうやら、論理的には、
<1>「抽象的概念としては権利義務又は事実証明に関する書類と一応いえるものであっても、その作成が一般の法律事務(弁護士法第3条第1項)にあたるものは、そもそもこれに含まれない。」
という命題に対し、
<2>「弁護士であっても行政書士法にいう『権利義務または事実証明に関する書類』を報酬を得て業として作成することが許されないことになる」という命題は誤りであるから、命題も誤りである証明できると論じているようです。

しかし、そもそも、<1>ならば<2>であるという部分がそもそも誤りです。これが正しいといえるためには、行政書士業務に弁護士にはできない固有の業務があるということが前提になります(実際にはそれだけではまだダメなのですが)。しかし、資格制度上弁護士資格は行政書士資格の完全上位互換であり、行政書士資格固有の業務はなく、弁護士は行政書士が行える業務の全てができます。だからこそ弁護士資格を有する者は無条件で行政書士にもなれます。つまり、下の図でいうと、会長声明の言い分が正しくなる前提としては、法律事務と書類作成の関係が左のような図になることが大前提ですが、そんなことはなく、右の図のような形になります。したがって、<2>はそもそも不能の命題なのです。

ただ、<1>の表現だと、確かに、弁護士の扱える事件である一般の法律事務から外れる権利義務または事実証明に関する書類があるといっているようにも見えます。
そこで、大阪高裁の判決を見てみましたが、これも行政書士の非弁事案で、報酬請求の裁判を起こしたが認められなかったというもののようです。そして、<1>の判示は、行政書士側の「行政書士法の書類作成権限は弁護士法72条の特則だから、書類作成であれば事件性(紛争性)があっても行政書士が行うことができる』というトンデモ主張に対する判示のようです。
ここでも右側の図を使って説明しましょう。つまり、紛争性があろうとなかろうと行政書士は書類作成なら行えるのだ、という主張に対して、紛争性ある書類作成は弁護士のみがおこなえる法律事務の範疇で、いくら形式的に権利義務や事実証明の文書作成であっても行政書士がやってはいけない、行政書士ができるのは紛争性のない三日月部分だけだよ、という話をしているわけです。つまり、広島高裁の判決同様、会長声明の解釈は、文脈を無視して言葉尻をとらえようとしただけのものなのです。

 

5 結局、どれも明らかな詭弁で誤りであること

以上見てきたとおり、職能に関しての会長声明は、どれも典型的な詭弁であり、的外れなものというほかありません。強制加入団体としての見識を疑わざるを得ません。