先日、裁判傍聴セミナーの案内担当を担当しました。

裁判傍聴セミナーというのは、裁判を身近に感じてもらうために、弁護士が裁判傍聴の案内係を担当する企画です。
裁判傍聴というのは、ニュースになるような事件でなければ、実はアポなしでいきなり言って自由に傍聴できるのですが、一般の人にとっては敷居も高いでしょうし、手続きによっては、みても意味の分からないものも多いです。そこで、事件の選別や解説などを弁護士が担当して、傍聴していただくわけです。
もう半分以上住んでしまいましたが、1週間前に申し込めば、今月末までは参加できますので、よろしければどうぞ。
詳しくはこちら(ちょっと下の方ですが)

さて、その時傍聴した事件について、おおざっぱに説明したいと思います。

メインで見たのは、窃盗事件で、すべての事件が起訴され、すべて被告人が犯行を認めており、情状証人の尋問、被告人本人への質問、論告求刑(検察官の意見)、弁論(弁護人の意見)、という、刑事裁判の手続の主要部分が見られる手続でした。パチスロ店で店内に積んであるメダルを盗んで換金するというのが主な内容でした。
参加者の方にも同じ話をしたのですが、弁護士が見ていると、優等生的な回答をしているのだけど内容に深みがない、なぞっているだけという感じでした。あえて上から目線で言えば、頭は悪くないのだけどやる気がないし反省した感じが伝わらない。またやるだろうなこの人は、という印象を受けてしまう感じでした。
例えば、もう二度とやりません、という話をするのはいいのですが、強い意思で何とかします、といったことだったり、被害者に迷惑をかけた、とはいうのですが、どうやったら償えるかと聞かれたときに自分なりの考えが出てこない、親に心配をかけたという割には、70前後の親が老い先短いことにも言及しない、という感じで、問題になるところの表面をなぞるだけという感じなのです。
裁判官も同じように思ったようで、突然声を荒げ、「体が悪いとかそういったことではないのに職を転々としていたんでしょう!そんな調子では、ずっと続く仕事なんて見つかりませんよ!立ち直るなんてできませんよ!」と被告人に向かって叱責を始めました。私的には、やはり同じことを思っていたんだなあ、と思う一方で、そういう熱い叱責を審理中にする裁判官はあまりいないので、関心もしました。被告人は涙ぐんではい、と言っていたようでしたが、どこまで伝わったかなあ、というのが気になるところでした。
情状弁護士かやることのない事件では、弁護士も、この人が二度とやらないためにはどうしたらよいか、というのが一番の関心事でもあります。短時間にしかかかわれない我々が更生させるというのははおこがましいのですが、ちょっとしたきっかけが転機になることもあり、それが何件やっても全くないとむなしくなる仕事でもあります。

この事件の審理が思いのほか長引いたのですが、続いて、同じく窃盗事件の判決を途中から膨張しました。最初のあたりが聞けなかったので、一般の方には何が何だかわからなかったと思うのですが、万引きの事件で、珍しい再度の執行猶予の判決でした。すでに執行猶予を受けている人は、原則として再犯の際は実刑なのですが、1年以下の懲役または禁錮相当の事件で、さらに特に情状酌量すべき事情があると認められるケースでは、再度執行猶予を付けることができるとされています。ただ、例外中の例外とされており、全くつける気のない裁判官もいます。
このケースは万引きの常習犯でしたが、実は、窃盗癖というのは、医学上精神疾患の一態様とされています。その治療を行い始めているということを考慮し、再度の執行猶予を付する、という理由でした。この窃盗癖の治療、普通の病院で取り扱っているところは少なく、専門的に行っているのは、群馬にある、赤城高原ホスピタルという病院と東京にあるその提携病院くらいとされています。前半部分を聞き逃してしまったので、これらの病院で治療を受けるという話になったのか、広島で担当してくれる病院があったのかはわかりませんが、その事情が考慮されたようです。
私も、赤城高原ホスピタルの院長の講演を聞いたことがありますが、「強い意思で二度と窃盗はしない」なんて言うのは絶対に不可能だ、と繰り返し言われます。奇しくも、前に傍聴した事件にはそのセリフが出てきたため、いいつながりで傍聴できたなあ、という日でした。

この日参加された方はみなさん傍聴が初めてということでしたが、知らない世界が垣間見れたのではないかなあ、と思います。

繰り返しになりますが、今年の裁判傍聴セミナーは今月いっぱい毎日平日午前中に実施しており、1週間以上前に申し込んでいただければ参加できます。よろしければご参加ください。
今年は私の担当はもうありませんが・・・。