遺言は万能ではない
全財産を1人に相続させるという遺言は、結構よく見かけます。このような遺言に従えば、他の相続人は、財産を一切相続できないことになります。
被相続人の意思を徹底するという観点では、それもありうるのかもしれません。しかし、例えば、それまでずっと介護していたのに死亡直前に仲違いしたり、死亡直前に悪い女に引っかかってその人に全部財産を相続させることにし、長年連れ添った奥さんに一切相続させないようにしたなど、あまりに徹底すると酷なケースもあります。
このあたりを考慮して、民法は、遺留分というものを定めています。遺留分は、被相続人の意思によっても取り上げることができない権利で、相続人が遺留分の範囲での財産の取得を希望すれば、その範囲で、遺言によって指定された相続の内容は無効になります。
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遺留分の割合は?
遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に認められます。
通常、兄弟姉妹というのは、配偶者や子、親などに比べると関係が薄いので、被相続人の財産を確実に取得させる必要がある場合というのは稀であるので、遺留分までは認められていません。
遺留分割合は、原則として相続分の2分の1です。例えば配偶者と子ども2人が相続人の場合、配偶者の遺留分は4分の1で、子どもの遺留分はそれぞれ8分の1です。
ただ、直系尊属のみが相続人である場合には、相続分の3分の1です。もっとも、親しか相続人がいないようなケースで、親以外に財産の全てを渡そうというケースは稀でしょうから、遺留分が問題になるケースはあまりないでしょう。
遺留分の請求方法
例えば、兄弟の1人が長年にわたり親と同居して、親が亡くなるまで1人で面倒を見たようなケースでは、他の相続人(兄弟)も、その財産を一人で相続することに異議がないケースも多いでしょう。
そこで、遺留分は、当然に認められるものではなく、請求することで初めて現実のものになります。
かつては、遺留分の請求は「遺留分減殺請求」と言い、各財産に対して機械的に遺留分相当分が自動的に請求者の物になるであれば、という制度だったのですが、2019年7月施行の相続法改正により、侵害額を金銭で請求出来る権利に変更されました。
遺産分割や遺言がある場合のように、使用に都合のいい財産を取得できるわけではなく、評価額の金銭請求が出来るだけと言うことになります。
例えば、兄A弟B2人が相続人のケースで、Aに財産を全部相続させる旨の遺言があり、実際の遺産は、1000万円の土地建物と、1200万円の預金であったような場合を考えてみましょう。かつての遺留分減殺請求権の行使では、不動産の持分4分の1と預金のうち300万円、ということになっていたのですが、現在は、BはAに対し遺留分侵害額請求を行使し、250万円+300万円=550万円の金銭請求が出来ることになります。なお、ここでの不動産は時価になりますので、現実の事例では不動産はいくらなのかという点が大きな争点になるでしょう。
なお、上の例は比較的単純でしたが、相続人がもっとたくさんいたり、何人かに財産が分かれて相続された事例では、誰のどのような財産を取得できるかの検討は、複雑になります。下手に説明すると誤解を招く可能性が高いため、申し訳ありませんが、ここでは省略させていただきます。
遺留分侵害額請求を裁判所の手続で争う場合、地方裁判所に訴訟を提起することになります。なお、相続財産によっては現金がほとんどなく、すぐには支払えない場合も考えられます。そこで、遺留分侵害額請求の裁判では、裁判所は全部または一部の支払について相当の期限を与えることが出来ます。
廃除と遺留分の放棄
ある推定相続人には、遺留分さえも渡したくないというケースもあるでしょう。例えば、虐待の末大怪我を負わされた息子などの場合は、渡したくないのが当たり前ですしその意思は尊重されるべきだと思います。また、先祖伝来の土地を一人に相続させたいなどの理由で、どうしても遺留分の減殺請求をしないように段取りしておきたいこともあるでしょう。
推定相続人が虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたときは、家庭裁判所に廃除の請求ができることになっており、廃除された場合には、そのものに相続権がなくなります。廃除は、遺言でも可能で、その場合には、遺言執行者が家裁に廃除の請求をすることになります。
また、遺留分権利者が納得し、家庭裁判所の許可を受けた場合には、相続人の生前に遺留分を放棄することが認められています。したがって、遺留分権利者が遺留分の放棄の許可を受けた上で、被相続人がその人には相続させない内容の遺言を残せば、一切相続させないことが可能です。
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