今日は、いくつか注目したい話題があったのですが、弁護士として影響が大きいと思った話題を取り上げようと思います。
厳密には昨日のニュースですが・・・。

「預貯金は遺産分割対象外」の判例変更可能性 審判で大法廷回付 最高裁
http://www.sankei.com/smp/affairs/news/160323/afr1603230033-s.html

一般の方にはピンとこないと思いますが、実は、預貯金その他の金銭債権は、遺産分割するまでもなく当然に分割される、という扱いになっているんです。
と、これだけ書くと、ますますピンとこないと思うので・・・(苦笑)手続き的なところから説明します。

いわゆる遺産、というのは、不動産、預貯金、株式、その他色々あるのは皆さんご承知だと思います。
不動産などは、共有になるわけですが、正直、世帯が別の家族が共有でもらっても、使えません・・・。そこで、誰かが1人で相続して、他の人はほかの遺産をもらったり、相続した人から代償金をもらったりするわけです。この分け方を決めることを「遺産分割」と言います。

これに対して、金銭とか預金というのは、頭割りしても何にも問題がありません。このことに着目して、従前の最高裁判例では、「金銭は遺産分割するまでもなく当然分割」としていたんですね。したがって、各相続人は、自分の相続分に応じた預貯金の払い戻しをばらばらに銀行に請求できる、ということになっていたのです。

これだけ聞けば、なるほど便利、と思われるかもしれません。確かに、預貯金しか財産がないような人には楽でいいのですが・・・。問題は、不動産とか、遺産分割せざるを得ない財産があった場合なんですね。そのまま行くと、預貯金は遺産分割の対象にならないので、不動産だけ分割する、預貯金は頭割りになる、という非常に複雑な話になってしまうのです・・・。
裁判所の実務では、全員の同意があれば預貯金も遺産分割の対象に出来るという取扱なので、たいていの場合は、預貯金も入れて対応するわけですが・・・。中には、話し合いが難しい人などがいて合意が出来ない場合もあります。

もし見直されて、預貯金についても遺産分割が必要、という話になると、銀行に個別請求が出来なくなる反面、遺産分割の手続はやりやすくなるかな、という気がしています。どんな見直しになるか分かりませんが・・・。
なお、この記事では、裁判実務と銀行実務に影響がありそう、となっていますが・・・実際には、銀行はたいていの場合、最高裁判決を無視して、全員の同意書を要求しています。遺言などで均等割になっていない場合などもあるので、個別の請求に応じるのはリスクが高いと考えているようです。まあ、気持ちは分からんではないですが・・・。家族仲がいいところばかりではないので、同意が取れなくて凍結されたままの口座というのも困るところではあります。とはいえ、最高裁判例が変更されればそれが追認されることになるんでしょうが。

一方、裁判実務は当然最高裁判例に忠実です。記事にも家裁、高裁は対象にならないと判断したが当たり前で、全国の裁判所は全てこれで動いてますから、当事者がよく許可抗告までしたな、とむしろ思います。

ちなみに、株式は不動産と同様不可分ということになっています。議決権のことと(金額次第)配当のことだけなら分割しても良さそうですが、提案権だったり閲覧請求権だったり、いろんな権利の複合なので、一体として考えるようです。また、意外なところでは、預貯金の中でも、郵便局の定額貯金は不可分債権になります。分割解約ができない契約なので、性質上不可分債権だということのようです。