長年賃貸業を営んでいらっしゃる方の場合、建物が老朽化したり、周辺の都会化などで、建物を建て替えてより有効に利用したいと考えることもあると思います。

建物もいつまでも同じものでいいというわけではなく、建替えが必要な時もあるでしょう。
ただ、物件に賃借人がいる場合、明け渡しが問題になります。

多くの場合、老朽化した旧建物と新築する新建物との間では家賃も間取りも異なりますから、旧建物の住民には退去を求めることが多いでしょう。
商業ビルでテナントを募集するケースでは、引き続き利用してもらいたいケースもあるでしょうが、一時退去は必須ですから、いずれにしても、明け渡しに関する交渉が必要になります。

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不動産業者には、明け渡し交渉の権限はありません

建て替えを考える時は、まずは不動産業を営んでいる方に相談するのが普通でしょう。
建物の建築についての相談もしなければいけませんし、それまでの賃貸業の関係でつきあいのある業者もいるのではないでしょうか。

ただ、気をつけなければいけないのは、明け渡しに関する交渉の代理が出来るのは弁護士だけで、不動産業者にその権限はないということです。

宅地建物取引業者宅地建物取引士(旧来の宅地建物取引主任者。)は、不動産の売買や賃貸借に関する仲介、代理が出来ます。しかし、出来るのはあくまで売買と賃貸に関する権だけで、たとえ付随する業務であっても、それ以外に関しては権限がありません。

建物の明渡しに関する校章は、いうまでもなく売買でも賃貸借でもありませんから、これに関する権限はないわけです。

単なるメッセンジャーとして家主が明渡しを請求していると伝えることまでは出来ますが(法律的には「使者」といいます。)、立退料の決定や、明渡し時期に関する折衝など、裁量を持って行わなければいけない行為は、出来ないのです。違反すれば弁護士法違反であり、刑事罰もあります。

かなり強引な交渉をしたケースだとは思いますが、現実に、ビル解体のため賃借人の明渡しの実現を図る業務について有償で依頼を受けた件について、立ち退くつもりのなかった多数の賃借人がいる以上、条件についての交渉が不可避であったことを理由に、弁護士法違反で有罪とした最高裁判決があります。

私は、広島弁護士会で、弁護士法違反の行為を取り締まる委員会に所属していますが(2015年~委員長)、その経験からいえば、不動産業者の中には、自分たちの出来る範囲が限定されることについて全く意識していない業者もいます。

思わぬ立退料で計画が頓挫することも

また、どうしても明渡しに同意しない賃借人がいる場合、裁判によらざるを得ません。また、事前交渉においても、賃借人側が弁護士を依頼すれば、不動産業者との交渉には一切応じないでしょうから、あなたが交渉するか、弁護士に依頼せざるを得なくなります。

さらに、裁判になった場合に認定される立退料というのは、一般的にいって、おそらく賃貸人の方が考えているよりもかなり高額です。引っ越しにかかる費用などでは全く不十分で、数年分の家賃に相当する額になることも多いのです。

不動産業者に疑問を感じたら

とはいえ、建替えに関する相談、あるいは、その後の賃貸人の確保を考えると、不動産業者との連携は必要不可欠です。問題は、その不動産業者が無責任な業者である場合には取り返しがつかない損害を被る可能性があるということです。

建て直すつもりで、10軒の賃借人に引っ越し費用程度の立退料での明渡しを請求し、半分は明け渡しに同意してくれたが、後半分が全く交渉に応じなかったというケースを考えてみてください。裁判で認容される立退料と弁護士費用を考えると、予定よりも1000万円以上の出費増になる可能性があります。計画は頓挫せざるを得ず、賃借人は半分に減ったが今の建物のままでやっていくしかない、ということになるかもしれません。

誠実な業者であれば、このような疑問にも誠実に答えてくれ、リスクを説明してくれるでしょうから、資金繰り計画の中で考慮することが出来ます。いざというときには弁護士に相談、依頼できる環境を準備してくれてもいるでしょう。

しかし、このあたりの説明を全くせず、建替えることで大きな利益になることばかり強調する業者のいうことを信用すると、抜き差しならない状態になってしまう可能性もあります。そうならない内に、自己防衛しておくことが大切です。

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