久しぶりの投稿ですが、消費者問題をライフワークとし、広島弁護士会で弁護士法違反の行為の取締をする委員会の委員長である私としては、この最高裁判決について書かないわけにはいきません。
昨日(平成28年6月27日)、最高裁で、司法書士は債務整理、過払いの事件をどの範囲でできるのかについての判決が出ました。この問題を一般の方にも分かるように説明するためには、色々と予備知識が必要なので、長文になることをご容赦ください。といっても長すぎると読む気も失せると思うので、できる限り要約したり、読めばいいところだけ太字にしたりしたいとは思いますが・・・。
前置きが長くなりました。
まず、認定司法書士は、弁護士と同じく代理人として訴訟事件を扱うことができますが、訴額が140万円までの事件に限られます。これは、裁判をするだけでなく、任意交渉でも同様です(この点については明文はありませんが、3年前まで講師をしていた認定司法書士の研修でもそのように厳しく指導していたと思います)。ただ、この訴額をどう考えるかというのが、債務整理の事件では微妙な部分がありました。
任意整理(サラ金や信販会社と交渉して債務を見直す事件)では、業者が、利息制限法で上限とされる金利よりも高い利息で貸付をしていたため、上限で計算し直すことで条件を見直すのが主な仕事です。
つまり、
(1)サラ金、信販会社の貸付けの利息は違法なレベルで高すぎたために、法的に返さなければいけない利息はずっと少なく、超えた分は元金を支払ったことになる。
(2)支払った利息があまりに多い場合には元金はなくなり、逆に払いすぎた分を返してもらえる(過払い)
ということになります。実際の手続としては、任意交渉による場合も裁判による場合もありますが(私は常に裁判を提起します)、一定程度減額して和解することもあります。
ということで、問題となる事件の額としては、
① 債権者の主張する額
② 正規の利息で計算し直した額(減額されるものの支払わなければならない場合と、過払で相手から返してもらえる場合あり)
③ 現実に和解する額
の3つがあり、それぞれ全く違う額になるということなんですね。
また、お金を借りる先は1社とは限りません。むしろ、依頼を受ける件では、たくさんの会社から借りているケースの方が多いです。このため、この3つの額も、依頼者1人の総額なのか、1社あたりの額なのかにより2通りあることになります。
これについて、日弁連(日本弁護士連合会)は、1人の債務者についての総額を前提に、債権額(①および②)のいずれかでも140万円を超えれば、認定司法書士は取り扱うことができないと主張していたのに対し、日司連(日本司法書士会連合会)は、1社あたりの実際の和解額(③)であると主張していました。平たくいえば、日弁連は権限が一番狭くなる解釈を、日司連は一番広くなる解釈を主張していたということです。
これに対して、最高裁判所は、権限の制限である以上明確な基準が必要であるとの観点から、①および②の額が140万円を超える場合には、権限外であると判断しました。(本件では、債権者主張額(①)が517万円あまりの債権、過払い額(②)615万円あまりのものが含まれ、これらはいずれも権限外であると明示しています。)なお、前述した、訴訟外交渉も140万円以内の範囲に含まれるという点も、明示的に判断されました。
考えてみるとこれは当たり前の話で、債権額がどうあれ、実際に和解する額が140万円であればいいというのであれば、結論が出るまで事件として取り扱ってよいことになります。極端なことをいえば、本来500万円取れる事件でも、140万円で和解するという理不尽なことをすれば、司法書士が取り扱ってよいことになるわけです。
依頼者1人あたりで判断するか、業者1社あたりで判断するかについてはどちらもあり得る話ですが、1人あたりで140万円の依頼者というのはかなり少ないこともあり、最高裁も権限を狭めすぎないように配慮したものと思われます。また、業者をつまみ食いして140万円にするという事態を恐れたのかもしれません。
ということで、2つの問題点のうち、一方を弁護士側、他方を司法書士側の主張を入れた形ですが、どちらかといえば、司法書士側に厳しい判断という見方が強いようです。
私は、過払い事件、任意性理事件だけを考える分には何ともいえませんが、今後の影響という意味では、司法書士側に厳しい判決という見方ができるかと思います。というのも、過払事件は下火になっている今、一般の事件では、司法書士に不利な部分が圧倒的に大きいといえるからです。
すなわち、債務整理は1人の依頼者に相手方が多数いるのが通常ですが、一般の事件では、相手方も1人のことがほとんどです。そうすると、最高裁の明示した、
<1>債権額が140万円を超えれば権限外
<2>訴訟外での交渉でも同様
という基準は、交通事故の損害賠償請求事件や慰謝料請求事件など、一般の金銭請求事件でもそのまま当てはまり、請求する金額が決まれば、自動的に司法書士の権限かどうかが決まるということを意味します。実際には200万円だけど、140万円払うなら許してあげるよ、という交渉もできないということです。
その意味では、今後の実務にも、影響は小さくないと思います。