先週(12月12日)の中国新聞(「中国わいど」面)に、グループホーム松籟荘という広島県北部の施設での死亡事故が報道されました。
(ネットで検索しましたが中国新聞の記事は見つからず、毎日新聞の記事は有料記事だったため、リンクは割愛します)

この件について、遺族の1人から依頼を受け、本日提訴しましたので、依頼者の承諾を得て、若干この事件について説明させて頂きます。

グループホームというのは、認知症患者が共同生活を営むことを前提とした高齢者福祉法上の施設です。当然のことながら、入居者は認知能力が低下していることが想定されますから、自立にも限度があり、職員にはしっかりした配慮が求められます。

グループホーム松籟荘は、この施設の1つであり、北広島町社会福祉協議会という団体が運営しています。
社会福祉協議会は、民間団体ではありますが、法律(社会福祉法)に定められ、行政区分ごとに組織した団体であり、運営資金の多くが行政機関の予算措置によるものであるため、「公私共同」「半官半民」で運営しており、準公的団体と言ってよいと思います。
本件は、そのような団体の運営する施設で発生した事故です。

依頼者のお母さん(以下、「被害者」といいます。)は、80代の女性で、認知症を患っており、かつての自宅を探して放浪する徘徊癖がありました。施設入所前に依頼者と同居していましたが、その際にも、出ていこうとするのを止めるのが日常茶飯事だったようです。

9月20日夕方、被害者は食堂で食事をとった後、自分の部屋とは反対方向に向かっていきました。これに気付いた職員が声をかけ、自室の方に誘導しようとしたようです。ところがこの職員、被害者が反応し歩き出した段階で、被害者に背を向けて戻り、後ろを振り返ることもなく食堂に戻ってしまいました。
被害者は、最初この職員の後を付いていったのですが、手前に合った出入口方向に向かってしまい、そのまま外出してしまいました。

認知症患者では徘徊癖はポピュラーな症状ですから、その共同生活が前提のグループホームは、職員が気付かないうちに外出することを防止する必要があります。松籟荘でもそのことは認識しており、出入口の扉にセンサーを設置していましたが、なんと、この被害者の外出時はこのセンサーがオフになっていました・・・。
扉に付いていたセンサーは、扉と壁に付いており、扉を開けるとこの2箇所が離れて警報が鳴るタイプのものでしたが、夏の暑い時期には通気のため扉を開放するので、センサーが鳴らないようオフにしていたらしいのです。極めて危ない状態で、過去にも、大事には至らなかったものの同じような外出騒動があったようです。

この日、被害者が外出したのは日の入りよりだいぶ後で、辺りは真っ暗だったと思われます。Googleストリートビューで確認する限り、街灯らしきものもなさそうです。
認知症患者の徘徊には極めて危険な場所だと言わざるを得ません。

そしてこの方は翌朝、溺死体で発見されました。近所の川に落ちてしまったようです。

もしセンサーが入れてあったら。職員がきっちりと部屋まで誘導していたら。この事故は絶対に起こらなかったはずです。準公的団体が運営するグループホームとしては、あまりにずさんな管理体制と言わざるを得ません。

本題とは直接関係ありませんが、この事故の2ヶ月前の7月、松籟荘では、入居者に対する暴行、傷害ということで、2人の介護福祉士が逮捕されるという問題を起こしたばかりです。グループホームというのは、入居者10人台の小さな施設です。そのような施設で、このような短期に大きな問題が立て続けに起こるというのは、組織としての大きな問題があると言わざるを得ません。

準公的団体としての社会的責任を果たしていないといわれても仕方がないと考えます。

そこで、損害賠償請求という形で法的責任を問うべく、訴訟を提起させて頂きました。