消費者契約法の改正案が国会で成立しました。
改正内容の目玉は、契約を取消できる類型の追加なのですが、これに関して、かなり最終段階で紆余曲折を経て内容が変更されました。
その内容に、日弁連の消費者問題対策委員会はかなり深く関わっており、私は副委員長として毎月の会議で状況報告を聞いていました(実働は全くしてません)。そこで、一般の弁護士よりも状況に詳しいと思いますので、この問題を紹介してみたいと思います。なお、経緯の説明に関して、国会の議事録などにあたってはいませんので、若干不正確な内容となっている可能性がある点、お断りしておきます。
消費者契約法は、消費者と事業者の能力や情報の格差により消費者が搾取されるのを防ぐためにできた法律で、事業者対消費者の契約に限って、契約を取り消す権限が付与されるなどの規定が置かれています。これまでは、不実の告知(嘘を伝える)、断定的判断の提供(絶対●●ですよと言って勧誘する)、不退去(帰れと言っても帰らない)といった、契約勧誘の言葉ややり方によって取消しできるという規定が置かれていました。
今回の改正では、これに加えて、いたずらに不安をあおる商法、デート商法(典型的には、交際中であると勘違いさせて物品を売りつけるなどの商法)、などが取消し可能な類型が追加されました。
ところがこの2つについて、立法過程で突然、「社会生活上の経験が乏しいことから」過度な不安を抱いたり恋愛関係にあると誤解したりすることが必要、という意味不明の要件が追加されたのです。
なぜこのようなことになったかというと・・・。成年年齢が18歳に引下げられるためです。ご承知の通り、選挙権は18歳からになったわけですが、その他の法律の取扱は変わっておらず、酒やたばこも、少年事件も民法の未成年も20歳でした。この中でまず政府は、民法の成年年齢を18歳にしようとしました(まもなく成立見込ですが)。これに伴っては、世論は反対意見の方が強く、悪徳商法などの被害が増えるという問題がありました。このため、引下げにあたっては、若年者保護のための制度と、未成年者の教育環境の整備が必須とされたわけです。
たまたま、それとは関係なく、消費者契約法の改正が検討されており、いくつかの取消類型が導入されることがほぼ確実な情勢となっていました。そこで国はこれ幸いと、「社会生活上の経験が乏しい」という条件を追加することで、若年者保護のための制度ができましたという体裁を整えようとしたわけです。
しかし、ここで大きな問題が生じました。元々、これらの規定は、若年者保護を念頭に置いて整備されたものではなかったからです。デート商法はまあ、比較的若年者の被害が多いと思われますが、それでもそれなりの年齢の被害者も少なくありません。不安商法に至っては、いわゆる霊感商法がその代表例の1つとして念頭に置かれていましたし、病気への不安をあおって健康食品を売りつけるなどの被害、或いは、悪質リフォーム勧誘などといったものは、むしろ、ある程度の年齢を重ねた人、さらには高齢者が中心の被害だったわけです。ところが、「社会生活上の経験が乏しい」などという要件を付け加えてしまったために、昔はしっかりしていたけど認知症で判断力が低下した人には当てはまらない可能性が出てきてしまったわけです。不安商法についてはご丁寧に、進学や就職、結婚、容姿、体型などの例示をして、対象を若い人に絞り込んだりもしていました。
と、問題点だけ指摘したところではありますが、長くなったので次回に続きます(明日アップ予定)