先日の消費者契約法改正の記事の続きです。前回の記事はこちらです。
結局、新しい消費者契約法の取消権は本来高齢者等も含めて消費者保護を実現するためのものだったはずが、18歳引き下げの体裁を整えるために利用された結果、余計な要件が付加されるという憂き目に遭いました。
そしてそのまま立法されかかったわけですが、私が把握している限りでは日弁連消費者問題対策委員会の消費者契約法部会のメンバーがこれに気付き、この「社会生活上の経験が乏しい」という要件を外すために、2月くらいから活動を始めました。具体的にはいわゆるロビー活動などをして、与野党の議員に会って説得を繰り返しました。
ところが消費者庁は、何とかこの法案をこのまま通そうと、かなり強引な解釈論を展開します。「社会生活上の経験が乏しい」というのは、一般的な経験ではなく当該契約類型に関して経験が乏しければいいから、必ずしも若くなければダメというわけではないと言い出したのです。そして、例えば霊感商法は、普通の人は霊感商法などに遭遇したことなどないのだから、高齢者がだまされたとしても、「社会生活上の経験が乏しい」に該当するなどと言い出すのです。この理屈だと、デート商法の場合、年をとっていても非モテであれば社会生活上の経験が乏しいことになるでしょうか?(笑)
まあ、どんな場合でも、だまされるのは広い意味では経験不足だからといえるでしょうから、なくてもいいことになりそうです。でも、成年年齢引き下げのためには、この要件を譲るわけにはいかなかったのです。
こんな経緯ですから、この要件が明らかにおかしいことは言うまでもありません。このため、ロビー活動をするうちに、野党だけでなく、与党の議員からも、これはおかしいという理解を示してくれる人が増えてきたそうです。ここで要件が外れるのが一番よかったのですが、政治的にそうはいかず、議員修正で、取消類型が2つ追加になりました。1つは、加齢や心身の故障で生計、健康などに不安を抱いている場合にその不安をあおる商法の取消。そしてもう1つは霊感商法の取消です。要するに、若年者に限ったために不安商法から外れてしまった高齢者被害を個別の条文でフォローすることで、救済範囲を広げたのです。
そんなんだったら最初から不安商法の条文を元に戻せばいいじゃん、と思いますが・・・それでは与党のメンツが立たず、また成年年齢引き下げのいいわけができなくなるので、こういう形になったわけです。とはいえこの変更、行われたのは5月中旬で、衆議院の委員会での代表質問、参考人質疑が終わった後でした。可決されたのは6月上旬。ほぼ決定していた条文を無理矢理最後の最後で議員修正させたのですから、異例の画期的成果といっていいと私は思います。
慌てたのが消費者庁です。原文のまま通すために無理矢理広い解釈をとったのにはしごを外されたのですから。今度は、大臣が答弁を訂正して、「社会生活上の経験に乏しい」というのは狭い意味だと言い出したようです。しかし多くの反対に遭い、訂正の撤回、広いままの意味だということになりました(その後も答弁の内容は訂正したいというのがありありと分かる内容だったようですが)。参議院の附帯決議では、社会生活上の経験の積み重ねが契約を締結するかの判断を適切に行うために必要な程度に至っていないことを意味するもので、高齢者でも本要件に該当する余地があることなどが確認されたようです。
以上で本論は終わりですが、余談を2つ。
デート商法についてですが、社会生活上の経験が乏しいとの要件が入った際、他の条件が広がりました。元々の条文では、相思相愛だと誤解させるような言動を加害者に要求していたのですが、変更後の条文では、誤解しているのを利用して契約締結させればいい、という形になり、勝手に誤解しているケースも救済される形になったのです。
また、消費者契約法部会の部会長が報告の際言っていたのが、史上初めて「霊感」という言葉が法律上の条文に入った、議員修正ならではという話でした。確かに、一般用語としては使いますが、いざ定義をしようと思うとよく分からない言葉ですから、官僚や法律の専門家は絶対条文に書こうとは思わず、意味を具体的に書くでしょう。いろいろな意味で劇的な変更だったと言えるかもしれません。