今回は久しぶりに、自分の事件について書きたいと思います。
先週、退職金請求の事件で和解しました。
相手は地元大手の学習塾で、就業規則に「同業他社に就職したら退職金は支給しない」「一旦支給したとしても、2年以内に同業他社に就職したら退職金は返還してもらう」という規定がありました。
どうやら、以前同業他社から大規模な引き抜きがあった際にできた規定のようで、その後に再度大規模引き抜きがあったときには、この規定に基づいて支給が認められなかった人たちもいたようです。
私の依頼者は、十数年講師として勤務しましたが、上司からのパワハラ(重要な会議に1人だけ呼ばれないなど)を理由に、ハローワークで求職の上、同業他社(ただし、ずっと規模が小さいところで、元々勤務していたところと再就職先の勤務地は別の市)に就職しました。
ところが、この大手の学習塾は、同業他社に就職したということで、退職金の支給を拒否してきたのです。
もしかしたら皆さんは、退職金の支給規程で、同業他社に就職したらダメと書いてあるのだから、支給されなくて当然と思っているかもしれません。確かに、大規模引き抜きが横行しては問題ですし、それに対する歯止めはある程度必要でしょう。しかし、一方で、十数年塾講師をしていた人に、他の仕事をやれと言っても無理な話で、無制限にこの規定を適用することは、職業選択の自由を極端に制限してしまうことになります。
また、従業員の退職金は、就業規則に計算根拠がしっかりと明示してある場合、給料の後払いの性格が強いとされています。したがって、簡単に支給しないことにはできません。どのくらい難しいかというと、例え懲戒解雇が認められるような場合であっても、無条件に不支給にできるわけではなく、それまでの功労を全く無にするほどの重大な裏切り行為があった場合にのみ、不支給とすることが許されるとされています。たいていの就業規則では、懲戒解雇→退職金不支給と規定されていますが、その場合でも、裁判で請求すれば、全部または一部が支給されることもあるわけです。
今回の場合、上司からのパワハラ(もちろん会社側は認めていませんが)により会社を辞めることになったのですから、被害者である依頼者に退職金を支給しないなどということは許されていいはずがありません。
私としては、多少の減額はあるとしても、早めに支払ってくるだろうと思っていたので、任意交渉からスタートしたのですが、その読みは見事に外れ、労働審判で支給が命じられても異議を申立てられて通常の訴訟になり、裁判で尋問を終了させて、和解がまとまらなければ判決、という段階でやっと和解ができました。和解内容は、退職金の9割を支払う、というものです。
相手との間では和解の内容は秘密にする必要はないことになりましたし、依頼者の方からも承諾をいただきましたので、今回書かせて頂きました。