私は、広島弁護士会の非弁・業務広告調査委員会の委員長をやっていますが、行政書士の弁護士法違反行為について、措置請求を行いました。

現段階では名前は伏せますが、交通事故案件を多数手がけ、県外への講演などもやっている人物です。

行政書士と弁護士は隣接士業と言われていますが、弁護士でなければ出来ない事件があります(逆はありません。行政書士が出来る仕事は弁護士は何でも出来ます)

基本的には、行政書士は書面作成をする仕事ですから、訴訟はもちろん、紛争が生じている場合の交渉はできません。紛争が予想される場合はおしなべてダメなのか、紛争が明らかになるまではいいのか、と言う解釈には若干の争いがありますが、いずれにしても、一から十まで本人に変わって交渉し賠償額を詰めていく交渉は出来ないという点ははっきりしています。

今回のケースでは、(元)依頼者から契約書の提供を受けました。その内容を確認すると、書類作成に関する手数料ではなく、弁護士と同様の着手金&成功報酬という体系になった上、弁護士を紹介して弁護士により解決した場合には半額の成功報酬が発生するという、条項が入っていたのです。

取れた額に応じて報酬が発生するということは、交渉により損害額を引き上げることが仕事の内容になっているということになります。これは完全に弁護士の業務であり、行政書士が行うことは出来ません。

さらに弁護士には、「非弁提携」の禁止という法律があり、他の業種と違って、弁護士を紹介する場合に、紹介料を受け取ることは出来ません。払うのが弁護士でも依頼者でもダメです。紹介した弁護士により解決した場合に成功報酬が発生するというのは、弁護士を紹介したことで依頼者から歩合制の手数料をもらっていることになりますから、この点でもこの契約書は問題があります(ただしこの時には、弁護士が紹介されることはありませんでした)。

この契約書を日常的に使っていたとすれば、同様の案件が何件もあったということになり、とても見過ごせる話ではありません。さらにこの行政書士は、自分で案件を処理するだけでなく、同業者向けの講演なども行っていましたから、さらに影響が大きいのです。

この行政書士の行為は弁護士法違反(犯罪)ですので、個人的には刑事告発も考えましたが、委員会の意見としては、措置請求までを行うということで落ち着きました。措置請求というのは、弁護士で言う懲戒請求に当たります。弁護士は、弁護士自治がありますので、懲戒権も弁護士が持っていますが、行政書士の場合は、監督官庁である都道府県が持っています。都道府県に対し処分を申し立てることを、措置請求というのです。

今回は、本人に対し会として警告書を送付する他、この措置請求を行いました。広島弁護士会が措置請求を行うのは2回目ですが、前回は、非弁行為が認定されて行政書士費用の返還を求める判決が報道された案件で、弁護士会が措置請求を出した時点で、県は既に動き始めていた模様でした。全く公になっていない案件に関し措置請求を行うのは、今回が初めてです。ちなみに前回の件は、4ヶ月の業務停止の処分になりました。個人的には、今回の件は、同等以上の問題案件だと思っています。

なお、今回は問題にならなかった非弁提携ですが、提携の条項が契約書のひな型に入っているということは、協力する弁護士がいるということです。この行政書士が実質的な紹介料を受け取っていたことを協力する弁護士が知っていたかどうかは分かりませんが、もし知っていたとすれば、その弁護士の懲戒も問題になります。