7月に続き、8月にも、3年近くかかった医療過誤事件が和解で終了しました。
今回は、この事件について報告させていただきたいと思います。

事件の概要

相手方は、いわゆる介護施設で、私の依頼者は被害者の娘さんでした。実は、最初は私ではない弁護士が依頼を受けて提訴していたのですが、経験不足もありやっぱり辞任させてほしいと言われたそうで、途中から私が引継いでやることになりました。といっても、半年くらい空転を続けていたような状態で実質私が最初から主張を展開する感じでしたが・・・。

事案としては、褥瘡と陳旧性脱臼でした。患者は、80歳手前の女性です。

褥瘡

褥瘡というのは、完全に寝たきりで自力では寝返りが打てなくなったような人が、骨と外力に圧迫されて血行不良を起こし、そのままの状態が続くと、赤く腫れ、ひどい場合には皮膚が壊死し、骨まで見える状態にもなり得るという傷害です。典型的なパターンでは、骨盤とベッドでお尻の辺りが圧迫されてしまいます。
寝返りも打てなければ、長期に放っておけば確実に褥瘡が発生します。病院や介護施設は定期的に介護者が体位変換を行いますので、通常は生じません。
私の理解では、真面目な病院や施設では、赤くなる程度の軽い褥瘡でも、大きな恥だと考えます。

しかし裁判になった場合には、病院、施設側は「過失はない」と争ってくることが多いのです。
褥瘡に関しても、学会の作ったガイドラインがあり、これによると、2時間ごとの体位変換だとか体圧分散マットレス(エアベッドなど)の使用が推奨されていますが、施設にとっては結構厳しい基準なのかもしれません。
しかし、前述したとおり、まともな医療関係者にとっては褥瘡は軽度のものでも恥のはずなのです。
今回のケースもそうですが、裁判になるケースというのは腫れた程度のものはないといってよいでしょう。私のケースでも、皮下組織は壊死して穴が空いた状態で、完治するまでに数ヶ月以上を要する重度のものでした。それだけ長期間放置されてきたということのはずです。

陳旧性脱臼

もう1つは、もっと衝撃的なもので、後医の診断によれば、陳旧性脱臼でした。
陳旧性脱臼は要するに、脱臼したまま放置されたために変な形で固まってしまい、2度と元に戻らなくなってしまった状態です。
状況はかなりひどく、医師が入れれば簡単にはまるが手を離すと抜ける、というような状態。もちろん、自分で動かすことはできません。バンドなどで固定しておくしかない状態になってしまったのです。

この点についての病院側の主張は、もっと前からそういう症状があった可能性があり、あるいは退院後後医が診察する前に脱臼して放置されたのかもしれない、等として争ってきました。

しかし・・・。この陳旧性脱臼が発見されたのは、施設を退所した当日に異変に気付いた娘が病院に連れて行った時でした。数時間で元に戻せない脱臼が生じることはまず考えられません。そうすると、入所中に生じたのでなければ、その前に既に生じていたことになりますが、入所時の検査で、バンドをしていないとすぐに脱臼するような状態というのがあり得るのでしょうか?

ただ、この事実関係については、資料が少ないこともあり、立証が難しかったのです。そんな重篤な脱臼に気付かないという施設の大失態のために、逆に証拠がありません。こちらの鑑定でも、入所中に生じた可能性が高いというところに留まり、絶対に入所中に生じたというところまでは指摘してもらえませんでした。

結局この方は、その後1年しない内に亡くなりました。取り返しの付かない苦しみが長引かなかったという意味ではよかったのかもしれませんが、遺族の思いは複雑だったと思います。その結果、提訴に至ったわけです。

裁判の結果

最終的には、800万円の支払で和解しました。
褥瘡と脱臼の両方について損害を算定しないと到達しない額なので、ある程度施設側もやましいと思っていたものと思います。

入所していたのは2015年の1~3月ですので、4年以上経っての一応の解決でした(提訴からは3年4ヶ月ほど)。尋問を行う前の和解協議での解決でこれですから、医療過誤は本当に時間がかかる事件です。

実は提訴前の段階で私自身も相談を受けており、その時には、脱臼の方の証明について不透明だったこと、褥瘡だけだとあまり大きな賠償額が期待できないことから、受任に消極的でした。そして結局、経験のない弁護士が提訴に踏み切り、何もできないままで私が交代することになりました。前の弁護士は無責任だと思う反面、私が最初から受任したかというと怪しいので、結果的にはよかったのかもしれません。

介護施設選びには注意が必要

高齢化社会の進展に伴い、介護施設は慢性的な不足状態だと思います。そして、介護施設に対する保険給付は定額で金額も決して高くないので、サービスの質を落として利益を捻出しているところも少なくないように思います。
介護施設で、十分な診察が受けられなかったり、今回のようないい加減な介護に終始するというケースは少なくないというのが、医療過誤の相談を受けている中での実感で、しかも、そういったトラブルは、特定の施設(1つではありませんが複数)に集中している印象で、施設としての体制が不十分であることが原因であると感じざるを得ません。