2月の終わりから3月上旬にかけて、裁判員裁判を担当していました。
事件は、県内の個人商店に入って金品を取ろうとしたが失敗して逃走した、その際、店の人ともみ合いになり軽い怪我を負わせたというものでしたが、罪名が強盗致傷。
強盗というのは、反抗抑圧できる強い暴行・脅迫があって初めて成立します。一般的な常識としては、それなりの凶器を持ってて移行できないような場合や、1人を多数で暴行するような場合は該当すると思いますが、普通のカツアゲなどは、恐喝になるケースが多いと思います。暴行や脅迫を手段としないで取るのは、窃盗になります。
強盗致傷の法定刑は6年以上の懲役(無期もあり)ですが、大した怪我をしていない場合や取った金額があまり多くない場合は、酌量減軽を前提に6年よりも軽い刑が言い渡されることも多い罪です。
「何らかの物」という、よく分からないもので脅したという何とも奇妙な起訴状で、切れないツールナイフ(十徳ナイフのようなものですが、ナイフ部分は歯がついていない感じでペーパーナイフ?という感じのもの)が証拠で提出されているのに、それで襲ったかどうかかどうかさえはっきりしないという内容でした。
しかもこのツールナイフも、犯行現場に持って行ったという証拠は何もなく、翌日職務質問した時に車に積んであったのを押収しただけでした(被告人本人は、犯行当時何も持っていなかったと言ってましたし、被害者も、何かを持っていたとは言うものの、ちらっと見ただけで何かはよく見ていない、ということでした)。
弁護人としては、持っていた凶器が特定できない以上、抵抗できないほどの暴行脅迫が出来たという認定はあり得ないから、窃盗だと主張しました。
恐喝ではなく窃盗だというのは、そもそも凶器を示したようなそぶりもないし、脅し文句も「金を出せ」と小さな声で1回言っただけ(被告人は否定しており、被害者の供述がこの内容でした)なので、脅迫になっていないという主張をしたのです。
最終的には、強盗致傷罪を認定しながら、懲役3年執行猶予5年という、酌量減軽を名一杯使った言い渡せる最大限軽い罪で執行猶予を付けるという、無理矢理執行猶予を付けた感じの判決になりました。
この事件は裁判員裁判ではあるのですが・・・。実は、本来無罪になって然るべき案件(このケースの場合は無罪ではなく強盗を認定せず窃盗を認定するということですが)無罪を出したくない裁判官が双方の控訴を防ぐために、どちらにもいい顔をしようとしてこういう判決を出すことがある,というのが弁護士の認識です。そして、この判決は、まさにそういう判決だと思っています。
要するに、検察庁には、強盗致傷認定してやったぞ、と言い、弁護人には、執行猶予付けてやったぞ、だからどっちも控訴しないよな、と暗に伝え、自らの判決が確定するように仕向けるというやり方です。
当然のことながら文句なく有罪になるようなケースでこのような手法がとられることはなく、高裁で判決が被告人に有利に覆される可能性があるようなケースで、自分の判決が破棄されるのを嫌がる時に限って使われる手法です。
裁判員裁判ではありますが、裁判官が相当この方向に誘導したんだろうな、というのが個人的な感想です。こんな判決を、一般の方が思いつくとはとても思えませんから。
判決文としても、何かは分からないけど何かは持っていた、小さい声で1回金を出せと言われだけでも、黒ずくめの男が閉店直後に突然現われてのことだったら怖いでしょ、というだけで、それのどこが抵抗できないほどの脅迫なのか全く意味の分からない説明しかありませんでした。
正直、この辺りが、日本の裁判官は十分な証拠がない場合でも無罪を出したがらない、刑事司法は他の先進国より50年遅れていると言われる所以だろうと思います。こんな変な判決が横行しているから、日本の無罪率は極端に低いのです。
弁護人としては、強盗致傷であれば、通常は実刑なので、執行猶予がついたことで最低限の仕事はしたと思っているものの、本来であれば、窃盗に認定落ちした上懲役1年~1年半に執行猶予がついて然るべき事件だと思っていますので、満点の判決とも言えません。
ここは二の次ではありますが、弁護の報酬としても、国選弁護の規定によると,いくら刑が軽くなっても、罪名が一緒だと上乗せがないはずなので、報酬面では成果は評価されません。
かといって、片方が早めに控訴に踏み切り他方がそれに合わせて双方控訴になったら、どちらに転ぶ可能性もあるわけで、弁護側としては実刑になったら目も当てられませんし、検事も、万が一窃盗になったら困るので、お互いに控訴せず、そのまま確定しました。