先ほど、黒い雨がテーマになった原爆症の認定訴訟で、国が上告を断念する方針となったことが報道されました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/f2d73f114e0e66bcec361d176c58964dca9a86f2

私は、この訴訟には関与していないのですが、15年ほど前の訴訟では、気象学者の尋問を行っており、思い入れがありますので、久しぶりにブログを書きたいと思います。知識をアップデートしきれていないことはご容赦ください。

報道によれば、内部被曝(要するに、直接放射能を浴びていなくても、被爆性の物質を体内に入れれば被爆の可能性があるという話です)の可能性があれば被爆者と認めるべき、という点が容認できない、ということで争っており、控訴の段階でも、確定させたい広島県や広島市を説得して控訴し、さらに高裁でも全面敗訴となったということのようです。

内部被曝の可能性があれば全て被爆者と認めうると言う議論が乱暴だという点に全く理由がないわけではありませんが、この可能性事態は国も認めていたからこそ、黒い雨の範囲では被爆者と認めていたわけで、黒い雨の範囲が異なれば、当然正しい範囲では被爆者と認めるべきと言うことになると思います。

15年前に関わっていた時の印象では、元々、国の方針としては、黒い雨の範囲を限定した上で、その範囲から外れた範囲にしかいなかった者の内部被曝はあり得ない、という形で国が争ってきていました。

ところが、その黒い雨の範囲というのは、かなり結論先にありきで、それを前提に国の御用学者(下のいい加減な内容を読んで頂ければ、なぜこのような乱暴な表現を使いたくなるかお分かりと思います)が気象シミュレーションを行っているのですが、真面目に読むと、「なんだそれは?」という内容でした。
私がその尋問を担当したので、どれだけひどい内容だったかを簡単に書いておきますが・・・。

要するに、黒い雨に含まれる粒子の大きさを3段階に細分化して、風の方向、強さを一定と仮定し、とんだ範囲を方程式で説いていく、という話なのですが・・・。

形式的なところで言えば、6次方程式(だったと思う)を解かないといけないのに計算式が5つしかないので解けないのです。もちろん本人が解けなかった訳はないので、実際には6つ式があるのでしょうが、他の人が見ても正しいかどうか検証のしようがない状態でした。

それよりひどいのは・・・粒子を大きく3つに分け(確か直径1mm、10mm、100mmくらい)、とんだ範囲を測定するのですが、各粒子間の飛んだ範囲に間隙が生じているままで取り扱っていて(実際には、5mmとか20mmなど、色々な大きさの粒子があるので、間隙など生じるわけがない)、かつ、一番小さい粒子は、影響が小さいということで無視していて(じゃあ、最初から測定する意味などなし)、結局、1cm台の粒子が飛んだ範囲しか見ていない(雨に混じるのはもっと小さい粒子のはず)という、真面目に読むと嫌になるような中身でした。
尋問でも、その学者は沈黙ばかりでまともな回答は全く返ってきませんでした。その結果、その時の一審判決では、まるで尋問と論文がなかったかのように、判決理由に一切触れてありませんでした。

そのような経緯なので、黒い雨が降れば被爆と認めるべきことはここ何十年の既定路線であり、黒い雨が広い範囲に降ったことが間違いないのであれば、当然認定されるべきということになるでしょう。その辺りの研究はその後進んでいるようです。