現在、裁判員裁判まっただ中で、忙しい日々を過ごしております。その他にもバタバタしており全く更新しておりませんもうしわけありません。

さて、2日ほど前の事になりますが、こんなニュースが流れていました。

強姦被告側弁護士:「示談なら暴行ビデオ処分」被害女性に
http://mainichi.jp/select/news/20150117k0000m040155000c.html

このニュースを見たら、多くの方が、「ビデオを処分してほしかったらただで告訴を取り下げろ」と迫った弁護士による強要の事案だと思われるかと思います。

しかし、この事案、弁護士から見ると、あれ?と思うことがいくつかあります。

1つは、被害者側にも代理人がついており、かつ、「このビデオを処分したら・・・」というやりとりは、被害者に直接言ったのではなく、その弁護士に伝えたということです。

もう1つは、否認事件であるということです。
つまり、示談交渉の中で、やったのは間違いないが、ビデオの処分と引き換えに取り下げてくれ、という話をしたわけではありません。

さらに、示談交渉決裂後、このビデオは検察庁に提出されたようです。弁護人が提出したということは、否認の証拠(おそらく同意があったということでしょう)になりうるものだった可能性が高いということです。

これらの事実関係だと、私が弁護人でも、次のような交渉をすることを考えます。
「本人は、強姦をしたわけではなく、同意の行為だったということを言っている。実は、あなたは知らないかもしれないが、本人は行為の最中ビデオを撮っていた。このビデオを見る限り、同意があり強姦罪が認められない可能性があると弁護人としては考えている。
したがって、検察庁には、同意の証拠として提出せざるを得ないし、裁判になれば、証拠として請求せざるを得ない。少なくとも検察官や裁判官には見られることになる。
それ自体があなたにとっては不利益ではないだろうか。ましてや、その証拠で不起訴や無罪になれば、あなたには、そのビデオを検察官や裁判官に見られた、という不利益だけが残ることになる。そのリスクを犯しても処罰してほしいということであれば仕方ないが、一度考えてみてほしい。もし告訴を取り消すなら、手元においておく理由がなくなるので、すぐに消去する」
交渉相手が本人なら、相手の心情に配慮しながら出来る限り表現を抑えて伝えることになるでしょう。

そしてこの事件、伝えた相手は被害者側の弁護士。弁護士相手であれば、こんなくどくどした説明はせず、
「この事件否認で、実はビデオを撮っていた。同意の証拠になと思っているので、確保しておかないといけない。告訴を取り消すなら必要ないからすぐに消すけど、どうするか確認してみてもらえないだろうか。」
というだけです。これで、一般的な能力の弁護士同士なら通じます。後は、被害者側の代理人が、そこをどう噛み砕いて話すかです。

正直なところ、こんな提案が被害者にとって嬉しいわけはありません。どのように丁寧に説明しても、被害者が「なぜ悪くない私が告訴を諦めなくてはならないのか」と不快に感じるのは普通でしょうし、「脅されているように感じる」事も有り得るでしょう。しかし、一方で、何も言わずに検察庁に証拠として提出するのが正しいとはいえないでしょう。
そういうところからすると、弁護人としては、純粋に選択肢の提示であった可能性が十分あると思います。

FACEBOOKやTwitterでやりとりしていた限りでは、多くの弁護士が同じように感じたようです。
事案が複数あるので、全てにおいて同意ということがありうるのかな、という部分もあり、このような見方が絶対とまでは思っていませんが、あまりにも事案の性質を無視して被害者の証言をセンセーショナルに載せたきらいがあるなあ、というのは強く感じました。