昨日、たまたま朝の情報番組を見ていたら、骨董屋さんがゴミ捨て場を見ていたら価値のある掛け軸を見つけたので、持主を探し出して買い取った、という話をやっていました。その中で、勝手に持って帰ったら犯罪ですか?という質問にある弁護士が答えていました。
ただ、その回答が、窃盗になるのか逸失物横領になるのか、という説明で、どちらにしても犯罪になるのが前提・・・。
正直、その論点は確かに問題になりうるけど、主要論点じゃないだろう、というのが正直な感想でした。
参考までに、この窃盗か逸失物横領かという話は、その骨董品が誰かの管理下にあるのかどうか(占有が認められるか)ということです。司法試験的な論点で、落とし物を拾ったら何罪になるのか、というのがありまして・・・。道路の落とし物は逸失物横領ですが、電車の忘れ物は、鉄道会社の管理下にあるので窃盗罪になるんですね。それと同じで、マンションのごみ置き場であればマンションの管理下ではないか、みたいな話をしてたわけです。
しかし、ここで一番に問題にするべきは、捨てた時点で所有権は放棄されているのではないか、保護すべき占有もないのではないか、という話のはずなのです。
つまり、捨てた時点で持主は所有権を放棄しているのだから、所有を保護する逸失物横領は成立の余地がないでしょう。
マンションの管理下にあると考えられる場合、占有を保護する窃盗罪は成立の余地がないではありません。しかし、通常はそもそも保護されるべき利益がない状態だから、問題にはならないでしょう。ただ、後者については、単純にこう言い切れない場合もあり・・・。例えば、一部の廃品回収などのように、捨てる人はただだが学校や自治体が幾ばくかの売上を得るような場合には、窃盗罪が成立するでしょう。また、杉並区など一部の自治体では、ゴミ捨て場のごみは自治体の占有とみなすという条例を制定し、明示的にゴミ捨て場のごみを持っていった場合は窃盗罪になるという形にしている例もあるようです。
また、骨董品を捨てた人が、実は価値のあるもので勝手に持っていった人がいると分かったら、まだ所有権なんて放棄していない、返せ、といったトラブルが生じる可能性も否定できません。確かに、回収されるまでは、ゴミ捨て場にいって持って帰ることも可能ではあるので、その言い分が完全に間違っているとも言えません。
そうすると、犯罪になるのか、ということに対する答えは、通常のゴミ捨てであれば大丈夫な可能性は高いが地域にもよるし絶対大丈夫とはいいきれない、ただ、事実上問題になることはきわめて少ないでしょうから自己責任で判断して下さい、という、何とも歯切れの悪い内容になってしまうわけです。とてもテレビではコメントできませんね・・・。
このコメンテーターの弁護士のコメントは、ごみをどんどん持ち去るのを助長してはいけないというテレビの意図があったのかなと思いますし、期いての通り、かなりややこしい話なので限られた時間では説明しづらいというのも分からないではないですが・・・。やはり弁護士としてコメントする以上、本質から逃げてはいかんよなあ、と思うのです。