事案の概要

本日(アップ日によっては先日)、平成28年から足かけ4年に渡り担当していた岩国での医療過誤事件の和解が成立しました。
事案は、胸痛を感じて病院に行ったところ、担当医の専門が消化器だったこともあり、心筋梗塞を逆流性食道炎と誤診され、数日後に取り返しの付かないところまで悪化して植物人間になってしまったというものです。
血液検査は行っており、GOTやGPTが高かったことから、「肝臓も悪いようだ」という誤診まで付いていました。しかし、数値を見ると、肝臓よりも他の臓器や筋肉(典型的には心臓)の疾患を疑わなければならない数値でした。
とんでもない誤診だと思われるでしょうが・・・実は、心筋梗塞を逆流性食道炎と勘違いする誤診というのは、消化器系の内科医がよく侵す誤診なのです。なぜそう言い切れるかといえば、この誤診、私が担当するのは2件目だからです。私自身、広島では医療過誤事件を扱う件数は多い方だと思いますが、業務の中心を担うほどではありません。広島地裁に提訴される医療過誤事件は、毎年10件台ですから、県外を飛び回って医療過誤事件ばかりやるという業態でない限り、扱う件数には限界があります。そんな中で、2件というのは、よくある誤診と言いきってよいのかなと思っています。

GOTとGPTに気をつけましょう。

自己防衛していただく意味でお伝えしておきますと・・・まず、逆流性食道炎で肝臓も悪いといわれた場合には、GOT(ASTともいう)とGPT(ALTともいう)やLDHと言う数値が高いはずです。その中で、GOTとGPTの数字を比べて下さい。GPTの数値が目に見えて低い場合は、心筋梗塞を疑った方がいいです。少なくとも肝臓の病気ではありません。
これらの数値は、細胞内の成分で、細胞が壊れた時血液に放出されます。細胞がたくさん壊れるとその分たくさん放出されますから、数値が高くなるわけです。そして、肝臓に極端にたくさんあるのはGPTで、GOTやLDHというのは、その他の細胞にも普通に入っています。GOTとGPTは基準値がほぼ同じくらいなので、GPTが極端に高い場合には肝臓の病気と推測できますし、逆にGOTの方が明らかに高いようなら肝臓以外の原因の可能性が高いと判断できるわけです。この人はGOTがGPTの3倍あり、明らかに肝臓の病気ではない数字でした。

事件の経過

病院側は一応自分が受診した段階で心筋梗塞を発症していたとは言いきれないと争っていましたが、あまりにも分かりやすいデータがあったため、そこでは勝てないと思ったようで、消化器内科医にとって専門外だから過失はない、と言う開き直り方が主戦場になり、裁判鑑定を申請したものの「循環器の専門医ではなく消化器の専門医に鑑定してほしい」という訳の分からないことを言い出しました。
鑑定というのは、裁判官には分からない専門知識について、専門家に知識を補充してもらうものです。専門外の人に「分からなくて当然ですよ。」なんて話をしてもらうというのは鑑定ではありません。私が強く抗議し、受入れられない旨を裁判官に伝えたところ、裁判官も理解してくれ、循環器の専門医でしか鑑定しない、という話になったところで、病院側は鑑定申立を撤回しました。そして、私的鑑定も提出することができず、和解に至ったのです。

因果関係について

誤診が間違いない場合でも、損害賠償が常に認められるわけではありません。誤診と結果の因果関係が問題になるからです。
実は以前のケースでは、敗訴的和解(100万円程度をもらって和解)でした。病院に行ったの自体が発症から一晩経っていたため、その時点で搬送しても手遅れで因果関係がないと判断されたのです。
しかし今回のケースは、病院から帰って何日間かはしんどいながらも普通に生活していました。しかも、障害が残ったのは脳だけで、心臓はその後詰まりが取れて再灌流し、機能を取り戻していました。このためご本人は今も意識がないまま生き続けています。それだけに、その時点で気付いて救急搬送していれば、絶対に元気になれたはずなのです。
和解では、4000万円の支払が認められました。しかし、元気な本人は戻ってきません。